本文へスキップ

府中市の耐震診断・構造設計に強い建築設計事務所

電話でのお問い合わせは042-361-4564

株式会社なまあず本舗公式HP

木造3階建ての外壁仕上げ

構造計算・構造設計だけが耐久性の決め手ではない現状

 木造3階建ての診断を長年やっていると構造面での欠点だけでなく、他のトラブルも多いのだということがわかってきました。なまあず本舗設計室は構造・耐震が得意ですが、その前に1建築設計事務所です。ここでは外壁面に絞り事例を紹介していきます。
 昭和後期のモルタル壁全盛の時代は、外壁にクラックができにくくすることで防水、長寿命化を図ることが多かったです。欠点はヒビが入ると雨が入り腐りやすいこと。しかしラス下に防水しており、木ずりの間の隙間も多いので、隙間が多く雨が入っても急激に腐る現象は、それほど頻発しませんでした。しかし平成に入ると構造用合板下地でそのままモルタルを施工する「ラスカット」のような工法が増え、気密性も高まったことも相まって、ヒビ割れから雨が入って腐る事例が増えました。サイディングも継ぎ目にコーキングしただけのもの多く、雨漏りの被害が多かったです。その後、サイディングが通気胴縁、透湿防水シートの施工が一般化し、被害が急激に減りました。モルタルも通気工法が増え、被害が減る傾向にあります。

I様邸の事例(平成11年築 外壁モルタル 通気無し 下地構造用合板(もしくはラスカット)

 I様邸は平成11年築で診断を行ったのは平成28年。よって17年ほど経過した木造3階建てで、中古として購入し若干の内装修繕を行ってから入居して数年が経過した建物です。雨漏りがひどいということで、ついでに耐震診断も、ということで知人を通して依頼がありました。
 構造図も構造計算書もありましたが、明らかに確認を通すだけの物であり、勝手に間取りを変更していました。心配だったのか?入れられるだけたくさん、筋交いダブルを入れまくっているのですが、その分の金物はついておらず、明らかに木造3階建ての構造計算、構造設計を逸脱した建物でした。
 耐震性は当然低いのですが、それ以上に通気胴縁もなく直接モルタルを施工しているので、合板と合板の継ぎ目を中心に割れがひどく、そこから雨水が入り内部で腐り白蟻も増殖・・・というさんさんたる状況でした。柱は真っ黒で、断熱材も水浸し。内壁のクロスは黒くしみていました。カビなども心配です。
 この年代のものは通気をとっていないので、内部に水が浸入すると出ていかないだけでなく、発見が遅れる場合が多く危険です。

O様邸の事例(平成8年築 外壁モルタル・タイル、下地木ずり)

 O様邸は平成8年築で診断を行ったのは平成24年。よって16年ほど経過したときに振動が気になるということで依頼がありました。実際の建物と計算書が異なる典型的な検査済証がない木造3階建てでした。ビルトインガレージと玄関が道路に面して、前面に耐力壁がない建物です。
 下地も木ずりであり、外壁もモルタルとタイル貼りなので、ひび割れがしていました。そこで耐震補強を行いました。J開口フレームを多用し理想的な補強ができました。その際、外壁も塗り直しました。
 しかし一年も経たないうちに、外壁にひび割れのような筋が出てきました。理由は、耐震補強で強くしたのは1階、2階の一部であり、補強していない部分の外壁下地は補強していないからです。揺れが減ったとはいえ、その面は3階の補強していない面でした。元々強くないところですから、また筋がでてしまっても仕方がない部分です。
 もちろん外壁を全部はがし補強すれば、このようなことは起こらなかったはずなのですが、予算の問題でできない場合がほとんどです。そもそも外壁のひび割れを減らすことは可能ですが改修で完全に防ぐのは不可能に近いです。特に木造3階建ては揺れなどが複雑ですので、特に上部は難しいです。

O様邸の事例(平成16年築 外壁サイディング 通気あり、下地構造用合板)

 O様邸は平成16年築で診断を行ったのは平成24年。よって築8年と比較的新しい木造3階建てでした。特に交通振動が気になると言うことで依頼がありました。
 間取りは図面と同じで、構造計算もしっかり行われているはずの建物でした。しかし計算書を精査すると垂れ壁を過大に耐力計上していることが確認されました。また後日改修時にわかったのですが、手抜き施工もかなりあり、建物の耐力は予想より大幅に低いことがわかりました。それでも耐震診断の数値は1.34。1階のガレージ付近以外は頑丈でした。
 この建物も前面のビルトインガレージを補強するだけで振動が大幅に激減しました。そのときに見つかった欠点も一部補修しました。
 ただ他の問題点が施主の心配を増大させました。施工業者に指摘されて気がついたのですが、築浅なのにシーリングだけがやけにきれいにはがれていたのです。振動が多いから、と私は思っていたのですが、どうやらシーリング前の処理に手抜きがあり、あっさり・・・ということでした。きれいな建物なのになぜかな?と思っていたのですが、それで理由がわかりました。
 通気もとっており、現状では少し水が入っても問題がなさそうなので、もう少ししたら外壁補修を行うそうです。そんな手抜きがなければ、と残念でなりません。

F様邸の事例(平成9年築 外壁サイディング 通気なし、下地構造用合板)

 F様は中古木造3階建住宅購入後に、建物の欠陥に気付き、ネットを通じて相談がありました。F様は建築関係者でもあるので自分でだいぶ調査を行っていました(令和3年調査)。
 今回は雨漏りについてのみ解説します。バルコニーやサッシに防水立ち上がりが不足していて、その部分からの雨漏りが繰り返されていました。その下部の壁や柱に水が伝わり、腐りかけたうえで、シロアリに食べられるという最悪な展開を過去にしていました。補修はされていますが、基礎の立ち上がりも低く、防水立ち上がりも不足しているので、再び繰り返す可能性が高いです。もちろん通気もありません。
 非常に安価に流通していますが、このような木造3階建ては購入すべきではありません。もちろん2階建てでもありますので注意が必要です。

最近の木造3階建てでは・・・

 最近の木造3階建ては建売でもほとんどの場合、構造用合板(もしくはダイライトなど大臣認定耐力壁)を外壁にはり、防水紙を施工の上、通気胴縁を施工しサイディングを施工しています。モルタルでも通気をとることがほとんどです。よって少しくらいひびが入って水が浸入しても防水紙を伝って下部に落ちるため、大きな問題になることは少ないです。もちろん最近は構造計算書、構造図通りに作られることがほとんどであり、強度的にも上記3例の建物より強いので、振動も少ないのが実情でしょう。

 ここで法改正を含め危険な木造3階建てが建てられている時代を推定してみます。

1980年代初旬 サイディングで通気工法始まる
1987年(昭和62年)準防火地域に木造3階建て可能に
1988年(昭和63年)青本(木造3階建ての構造計算の最初のマニュアル)発売
1996年(平成8年頃)サイディング通気工法のための透湿防水シートJIS制定
1999年(平成11年)建築確認の民間開放
2000年(平成12年)建築基準法施行令改正(金物、バランス、基礎)品確法施行
2001年(平成13年)旧グレー本(現在の木造構造計算の基礎となる書籍)発売
2003年(平成15年)金融機関が完了検査受けていない建物の融資をしない方針
2005年(平成17年)耐震偽装事件
2007年(平成19年)建築基準法改正(偽装事件を受けて)
2008年(平成20年)新グレー本(旧グレー本の欠点を是正)発売
2009年(平成21年)住宅瑕疵担保履行法施行
2017年(平成29年)新グレー本2017(新グレー本の改訂)発売

1987年に可能となったわけで、それ以前はかなり危険です(ただの違法です)。特に壁量不足、金物不足で倒壊する可能性が高いです。私も数件見たことがありますが、非常に弱くて危険でした。

1988年に青本(マニュアル)が発売されたとはいえ、手計算で行うには煩雑すぎるためあまり普及しませんでした。その頃の計算書は今から見ると正直かなり適当なものが多いです。とはいえ、几帳面な設計者が計算や設計を真剣に行ったため、比較的まじめなものが多かったです。施工も真新しい金物の考え方などが新鮮で、結果阪神大震災で倒壊が少なかったものと思われます。

1993年頃、木造3階建ての構造計算を画期的に普及させた木造舎のkizukuriが発売となります。このソフトは構造や建築を知らなくても形通り入力すれば計算書ができるという画期的なものでした。その後トップシェアを獲得します。

1995年、阪神淡路大震災が発生します。青本に基づいて設計された木造3階建ての被害は非常に少なかったため、構造計算の有効性が実証されました。しかし不幸にして築浅でそれほど多くなかった木造3階建てだったため、青本の欠点(吹き抜け等)は放置されました。また普及を始めた計算ソフトを熟知しない設計者が使い始めたこと、簡単に計算書を作成できることを悪用した業者によりたくさんの耐震性が不足する木造3階建てが建てられるようになりました。

1995〜2000年頃 木造3階建てが建売を中心に大量に建てられました。計算方法に欠陥が当時から認められた青本は計算ソフトとの相性も良く比較的簡単に計算ができたため、計算ソフトを利用した設計が大半を占めるようになりました。そのため構造設計の基本もないまま計算をおこなうにわか計算者が発生しました。
 特に深刻だったのが確認申請の制度の不備を突いた手法です。建築確認は適当な図面と計算書できちんと設計しておき、施工時に違う建物を建てる、という手法です。もちろん中間検査や完了検査は受けられませんが、当時はまだ完了検査を受ける建物が少なかった時代で、受けなくてもなんとかなった時代です。そこできちんとした設計を行った建物とそうでない建物の差が歴然としました。相談が多いのもこの時代の建物です。
 また通気が取れていない建物も多く、雨漏りによる土台や柱、構造用合板の腐りが多い時期でもあります。

2000年の建築基準法改正や品確法による耐震等級の導入などで建築に対する関心が高まるとともに、10年保証などの関係で建築物の性能に目が向けられるようになりました。この時期から、住宅の品質に関して先行する施工業者の意識が高まりました。

2003年には、国から銀行協会等に新築の建築物向け融資を行うにあたって、検査済証を活用するように依頼し金融機関が協力を開始しました。完了検査を受けない建物に銀行が融資をしないようになるにつれ、木造3階建ての違法建築物はこれを機に激減していきます。

2005年には耐震偽装事件が発生しました。木造3階建ても元建築士による偽装が発覚しましたが、偽装がホテルやマンションに集中していたため、あまり注目を浴びることはありませんでした。しかし審査や完了検査が厳格化したため、求められる計算精度や完成度が非常に高くなり、飛躍的に木造3階建ての品質が高まることになります。特に長年の懸案だった青本の利用がこれで少なくなり、旧グレー本に切り替わっていくことになります。

2008年になると旧グレー本の欠点を改善した新グレー本が発売され、それに対応するソフトが発売されると旧グレー本や青本を利用するユーザーは激減していきます。
木造構造計算では、青本以来の実用的な改訂で、多くの設計者はこの本を基準に構造計算を行うことになります。

2009年に住宅瑕疵担保履行法が施行され、バルコニーやサッシの防水立ち上がりによるトラブルが激減しました。特に木造3階建てでは階高の関係で防水立ち上がりを守らない建物が多かったので、木造3階建てを買うなら、検査済証があり、住宅瑕疵担保履行法利用の建物を推奨します。

2017年は、新グレー本の改訂で2017年版が発行されました。2008年版と法規との整合、CLTなどの新しい工法との関係性、新しい耐震の研究の成果の折り込みなどで、基本的な部分は2008年版を踏襲しています。2冊に分冊化され、構造計算例は別冊になり使いやすくなりました。
 この時期以降の建物は構造設計でのミス、施行でのトラブルが激減するので、購入するなこれ以降を特に推奨します。ただし中古の場合、築浅なので手放した理由などを確認してから購入した方がよさそうです。

 通常の木造住宅の構造計算手法はほぼ完成の域に達しました。しかしながらこの手法を続ける限り、創造的で変化に富んだ木造住宅を建てられなくなる、と感じる設計者も増えてきました。具体的には吹き抜けやスキップフロアなどの要求に応えられる手法ではないのです。誰にでも安全に設計という部分に主眼がおかれたため、そうなってしまったといえます。

2017年頃には、そういった声にこたえるべく、非整形の建物に対応したソフトがリリースされました。木質構造設計規準等のグレー本以外の手法で計算できます。WOOD-ST(構造システム)、SEIN La CREA(NTTファシリティーズ総研)、ASTIM(アークデータ研究所)など新しいタイプが話題になりました。まだ誰にでも使えるレベルには到達していませんが、今後の構造設計の可能性が膨らみました。

2021年5月27日 加筆

shop info店舗情報

なまあず本舗設計室

〒183-0021
東京都府中市片町1-6-4
関ビル2F
TEL.042-361-4564
分倍河原駅徒歩5分 詳しくはこちら